皆さんは、気象道場というものをご存じでしょうか?

ひとことで言うと 競技天気予報 です。多分世界初。
主に「試合」と呼ばれるゲームについて、基本的には以下を行います。
- ある日およびある時点での、1つまたは(地理的に近い)複数のアメダス地点における何らかの観測値を予報する。
- 予報するものの種類として以下のような項目がある。
- 3時間程度ごとの数個のアメダス地点、あるいは特定の時刻における複数のアメダス地点における以下の測定値
- 気温
- 降水量
- 風速
- 特定の1日の以下の測定値
- 最高気温
- 最低気温
- 降水量
- 最大風速
- 3時間程度ごとの数個のアメダス地点、あるいは特定の時刻における複数のアメダス地点における以下の測定値
- ひとつの試合は、概ね 16-24 個程度の測定値の予報が求められる。
- 予報するものの種類として以下のような項目がある。
- 実際に測定が完了した後、予報の精度において判定が下る。
- 一本 (得点率 $100$ %)
- 技有 (得点率 $[50,100)$ %)
- 有効 (得点率 $(0,50)$ %)
- 無効 (得点率 $0$ %)
- ゲーム全体における得点の総和の多寡を競う。
(主に「演武」と呼ばれるゲームにおいて、例外もあります)

私は、 2026/08/11 時点において(幸運にも)レーティング全一を達成することができています。

しかし、気象の知識で無双している訳ではなく、どちらかというとメタ的な要素に勝因があると思うので、ここに私なりの攻略法を書き留めておきます。
おことわり
本記事の現在の版は、 2026/08/11 時点の情報をもとに執筆されています。
本記事は以下の理解を前提とします。
- 中学および高校で習う理科の基本的な知識
- 高校および大学の教養課程で習う統計の基本的な知識
逆に、これだけの知識があれば、十分に気象道場の上位勢を狙うことができると筆者は考えております。是非ご参加ください!
また、記事中の各所にて、(有識者に怒られてしまいそうなほど)非常に単純化した数理モデルの導入を行います。ご了承ください。
- 予報資料を活用せよ
- 得点計算を掌握せよ
- 成績を安定させるのではなく、1位を狙うべし
- 一貫性のある予報をせよ
- オフセットを見抜け
- レート減少を恐れず、レート減少をしない
- よりよい初期条件を知った上で、直前に予報せよ
- AIを活用せよ(省エネ編)
- AIを活用せよ(議論編)
- 打席に立ち続けよ
予報資料を活用せよ
気象道場では予報資料が配布(将来的には販売)されます。これを利用しない点はありません。予報資料には ここで説明されている GSM, MSM の予報が存在します。これらをベースにすることで大外しすることはあまりなく、逆にこれらが大きく外れればコンテストの難易度自体が非常に高くなり多くの参加者が大きく予報を外す難しい回になります。なので、基本的にはここにある数値予報を参考にすれば十分です。
得点計算を掌握せよ
どのような予報をするとどのような得点が得られるかをざっくりと把握しておくことは、どう予報を出すとどのシナリオをケアできるかを判断するのに重要です。いい機会なので GPT 5.6 Sol に調査してもらいました。
| 要素 | 配点 |
得点式 ($d$ を誤差とする) |
| 気温 | $\displaystyle 200$ (固定) | $\displaystyle \lfloor 200 e^{-1.25d^2} \rfloor$ |
|
風速 |
$\displaystyle P$ |
過小予報: $\displaystyle \lfloor P e^{-d^2} \rfloor$ 過大予報: $\displaystyle \lfloor P e^{-d^2/4} \rfloor$ |
| 降水量 | $\displaystyle P$ |
過小予報: $\displaystyle \lfloor P e^{-d^2/q} \rfloor$ 過大予報: $\displaystyle \lfloor P e^{-d^2/(4q)} \rfloor$ |
観測値によって風速では $P$ が、降水量では $P$ に加えて $q$ も変動します。
気温については誤差の絶対値に得点が依存し、風速・降水量については過大誤差は過小誤差の半分として扱われます。また、得点率のグラフから、風速・降水量は思った値よりほんの少しだけ大きく予報する方が得点期待値は高くなります。
気温
概ね ±0.4℃ 程度の範囲であれば満点の 8 割を回収できます(その程度の誤差には寛容と考えるとよいでしょう)。そこから ±1℃ に至るまでに急激に得点が下がり、誤差 1.2℃ を超えた領域ではほぼ点数が入らないと捉えてよいでしょう。

風速
過大誤差が過小誤差の半分として扱われます。
風速は絶対誤差に得点が依存します。
過小は 0.5m/s 、過大は 1.0m/s 程度外しても 8 割程度の得点が来るので、特に穏やかな日では稼ぎ頭になります。

降水量(前1時間)
過大誤差が過小誤差の半分として扱われます。
降水量が少ない時は $q$ がかなり厳しくなります。
なお、アメダスでは降水は 0.5mm 刻みで測定されることに注意してください。

日降水量
過大誤差が過小誤差の半分として扱われます。
前1時間降水量に対し、やや $q$ が緩めです。

成績を安定させるのではなく、1位を狙うべし
気象道場のレーティングシステムには、(競技プログラミングでもよく知られる)パフォーマンスの概念があります。パフォーマンスとは、ざっくり言うとそのコンテスト一度だけで判断した場合のレーティングです。
厳密には違いますが、競技前のレーティングを $r$ 、競技でのレーティングを $p$ とすると、競技後のレーティングは $r+0.2\times(p-r)$ となります。ただし、そのコンテストの平均の50%以上の得点が得られていればレートは減少しないように補正されます(詳細は後述します)。

ここに、コンテスト前のレーティングとパフォーマンスからコンテスト後のレーティングをざっくりと見積もるプロットを掲載します。さらに、パーセンタイルが 90% 以下であればレーティング非減少の補正を受けられると仮定します。
実際は得点偏差による効果やひとつのコンテストで変動するレーティング幅の制限があるため、これに必ずしも従うとは限りません (辛勝だと上昇幅が小さく、大勝だと上昇幅が大きくなります)。

これを見ると、レーティング 2000 でパーセンタイル 35% 以下、 3000 で 14% 以下、 4000 で 4% 以下程度を狙わなければレーティング上昇は見込めないことが分かります。
さらに、極めて上位においてパフォーマンスが急峻に上昇するため、基本的には安定してそこそこ当たる予報よりも、多少失敗しても良いので 1 位を狙いに行く予報が強いことが分かります。
一貫性のある予報をせよ
重要度が高いです。
予報の一貫性とは何でしょうか?例えば、課題地点が以下の位置関係にあったとします。

このとき、 A,B,C 各群の計測値には強い相関があるはずです。
例えば以下のシナリオがあるとしましょう。
- α: 昼間の気温が 25 ℃ 程度で推移する。
- β: 昼間の気温が 25.5 ℃ 程度で推移する。
- γ: 昼間の気温が 26 ℃ 程度で推移する。
各群の内部で異なるシナリオを採択することは、上位を狙うことに繋がりません。
図は以下をプロットしたものです。
- 青: 3 つの予報であって、全てが $\mu=0, \sigma=0.8$ の正規分布に従う場合のパーセンタイルと得点
- 橙: 3 つの予報であって、 $\mu=-0.5,0,0.5, \sigma=0.8$ の正規分布に従う場合のパーセンタイルと得点

どちらも全体で平均(符号付き)誤差 0 の予報ですが、一貫性を持たせることで 30 点程度の積み増しが実現できています。
地理的な情報だけでなく、時間などの他の条件についても、近い項目に対して一貫性を持って一貫したシナリオを採択することで、大勝を作り出すことができます。
オフセットを見抜け
重要度が高いです。
数値予報・世の中に出回っている予報とアメダスの測定値との間には、以下のようなオフセットが入ると考えられます。
- 予報地点とアメダス地点との差によるオフセット
- アメダス地点周辺の環境のオフセット
- 数値結果とアメダスの測定値とのオフセット
- 一定時間ごとの測定値と日最高・最低値とのオフセット
- 「どれだけ風が穏やかでも、最低限このくらいは吹く」というオフセット
このオフセットを定数誤差として近似するだけでも、一気に得点が伸びます。
逆に、このようなオフセットをどうにかして補正しないままだと「最初から負けている」ような予報になってしまいかねません。
図は以下をプロットしたものです。
- 青: 3 つの予報であって、全てが $\mu=0, \sigma=0.8$ の正規分布に従う場合のパーセンタイルと得点
- 橙: 3 つの予報であって、 全てが $\mu=0.5, \sigma=0.8$ の正規分布に従う場合のパーセンタイルと得点

0.5℃ のオフセットを補正し損ねた場合、概ね 50 点程度の損失が発生していることが分かります。
レート減少を恐れず、レート減少をしない
気象道場のレーティング計算式にはこんなことが書かれています。

コンテストにおける自身の得点を $s_i$ 、全体の平均点を $\mu$ としたとき、 $s_i$ が $\mu/2$ 以上あればレートが減少することはないのです!
この条件に抵触してしまうのは毎回数人程度、良い時だと 0 人である場合すらあります。理由は以下の通りです。
- 明らかな晴れの日の予報項目に降水量が含まれる場合、予報 0mm 実測 0mm である場合、 50*(降水量の回数) 点がほぼ無条件に得られる。この項目だけでも $\mu/2$ と比較して 25*(降水量の回数) 点だけマージンが得られます。
- 現在の得点計算において、風速の採点が甘い。よほどのことが無い限り、どの予報に従ってどのシナリオを採択しても、ほぼほぼ技有以上の判定を得ることができ、ここでも $\mu/2$ に対して確実なマージンが得られます。
- 多くの参加者の予報および世間に出回っている予報が GSM あるいは MSM ベースなので、そこからあまりにも外れた予報をしてかつシナリオも大外しするということが起こらない限り、 $\mu/2$ 点より低い得点を得ることは滅多にない。今のところ、数値予報に従順な予報を出すという行為の期待値が $\mu$ 点あると考えて構いません。
なので、本当に極めて攻めた予報を行わない限りはこの条件を恐れず、レートが非減少だと考えて勇敢に試合に臨んで良いのです!
ひとつ注意点として、ある項目を空欄で予報してしまうとそこに値 0 が入ってしまい、本当に大変なことになります。うっかり空欄をたくさん作ってしまうとえげつないくらいレートが下がると思います。なので、全項目をしっかりと予報しましょう。
よりよい初期条件を知った上で、直前に予報せよ
物理現象というものは、往々にして初期条件に鋭敏です。8月10日の値を予報する場合でも、8/8の夜に予報する場合と8/9の夜に予報する場合とでは、知ることのできる初期条件に大きな差があります。
特に、翌日3時や翌朝の予報を当てることが要求されている場合、前々日から予報すると30時間程度先を当てる必要がありますが締め切り直前に予報すると3-9時間程度先を当てるだけで済みます。これだけでも当てやすさは段違いです。
どれだけ早くても締め切りの2-3時間程度前まで待ってから精査を始めると良いでしょう。精査に時間をかけすぎて不完全な状態での解答提出が発生しないようにご注意を。
万が一、早期に解答を提出することに成績上でのインセンティブが発生する場合は話が変わってきます。そのようになった場合、知見が溜まってきた頃にここを改筆します。
AIを活用せよ(省エネ編)
AIを活用するのもよいでしょう。
例えば、数値モデルと実況値とのプロットを作成させることで、現在の状況を視覚的に捉えることができます。これだけでもシナリオの採択が相当行いやすいのではないでしょうか?

おまけ: このプロットを見て 3,6,...,24 時の実測値を予報してみてください。反転テキストで正解を書きます。
正解【0.4, 0.4, 1.5, 2.5, 2.9, 1.7, 0.9, 0.8】
また、予報を行うに際して注意すべき現象があるかどうかも AI に調査させることができます。どの項目に不確実性が入るとか、どのようなシナリオがありうるか複数提示してもらうとかができます。
AIを活用せよ(議論編)
AI で省エネができるのであれば、 AI と議論だって出来ます。私は以下のような活用法をしています。
- まず、 AI にも同じ予報資料を渡した上で予報してもらう。(予報 A とします)
- 予報 A を見ることなく自分でも予報を作成する。(予報 M とします)
- 予報 A と予報 M との差を項目ごとに比較する。... ★
- 予報 A と予報 M が近いものについて、予報 M を採択する。
- 予報 A と予報 M が離れているものについては、以下の作業を行う。
- もし予報 M を正当化できる強い根拠があるのであれば、予報 M を採択する。
- そうでないなら、予報 A を受けた上で自身の予報を精査し、予報 M' とする。また、 AI に対してもその項目の予報の精査を依頼し、予報 A' とする。
- その後、改めて予報 A' と M' を比較する(★に戻る)。基本的には、 A' および M' を作った時点で M' を採択できるほど品質が向上するが、これでも合わず正当化も出来ない場合、その項目について深い精査をやり直す。
特に AI の予報と自分の予報が大幅に異なる場合、自分が何かを誤解している可能性があります。そのような項目について納得の行くまで AI に質問を投げかけたり AI と議論を試みたりしてもよいですし、どうしても納得できない場合は自身の予報を貫くと良いでしょう。
打席に立ち続けよ
ここまで散々御託を並べてきましたが、結局のところ最も大事なのはこれです。
各コンテストにおいて得られるレーティングの期待値が正である以上、とにかく試合にしっかりと出続けて、バットを振り続けることが最も強いです。
ある時は連続で停滞してモチベーションが下がってしまうかもしれません。また、ある時はレート減少を喰らってしまうかもしれません。だとしても、懲りることなくリングに登り続け、ひたすらに闘うことが最も単純で、最も強い戦術です。
ひたむきに挑み続ける姿勢こそが、最も実を結びます。
どうでしょうか。実際はもう少し無意識化で行っていることがあると思いますが、自分が行っている方法をなるべく詳しく言語化してみました。皆様の成績向上の役に立てたのなら幸いです。



